マウィミウオの世界

美魚の生活雑記録

ひけるギターをひくんだぜ

f:id:mauymiuo:20170521091743j:plain安魚はダイソーでオモチャのギターをねだり、美魚は3度目くらいで買い与えた。すぐ飽きると思ったのだが、
「みんな~友達~」
「ひけないギターをひくんだぜー」
「安魚の~コンサート~」
などと毎日かき鳴らして歌ったことだ。
踏んづけてバキっと割れた所を
「お母さん直して~」
とテープを持ってくること数回、ついに使い物に成らなくなってしまった。
美魚はまたダイソーで買ってやるつもりであったが、漁太郎は安魚を連れてお茶の水まで出向き、ウクレレを買い与えた。f:id:mauymiuo:20170521091859j:plain
美魚は楽器店と言うものは敷居が高くて入りづらい。音楽の素養は一切持ち合わせていないし、縁もゆかりもない。イメージの客層は見るからにロックンロールな人々で溢れているのかと思っていたが、小綺麗な若者ばかりであった。それは画材屋にベレー帽を被った人々が溢れている古臭いイメージと同じであろうか。漁太郎は楽器店を巡って、一番安価な店で安魚にチョイスさせる。安魚は店先の吊るしの赤いウクレレをチョイス。だが、支払いを済ませ品物を受けとる寸前に
「やっぱり紫がいい」
と言い出す。安魚は紫色が一番好きだ。絵の具もクレヨンも紫ばかり使う。紫の履歴書を安魚も書くのだろうか。
早速帰って取り出す。まず音が全然違う。2400円だが、玩具ではない。
安魚はかき鳴らしてみて、
「なんかさみしい音がする」
漁太郎も美魚もコードなど知らない。ウクレレってなんか陽気な気がするんだけと、妙に寂しくなるのは何故だろう。

安魚、こども園を見学

30年度に年中入園させる予定の安魚。家から歩いても行ける私立幼稚園は3件。送迎バスを利用せずに美魚にも自転車で通わせられる距離では、
(漁太郎はアンチ送迎バス派)
一般的な幼稚園4件、お寺系1件、カトリック系1件、そしてこども園に絞られる。
こども園は0歳から3歳までは保育園で、4歳から幼稚園になる。公立なので二年保育のみである。安魚の二年保育を決めた時から勿論念頭にあった園だ。だが、こども園はベールに包まれているように思われる。ホームページも曖昧だし、直接見学するほうが早い。
美魚は安魚を連れてこども園を訪れた。女性の園長に直々に概要を説明していただく。29年度総定員は107名。内4歳児は長期、短期合わせて29名。新たに募集されたのは短期保育の15名であった。
「こちらは普通の幼稚園とはかなり異なっていまして…」
美魚は手渡されたパンフレットに目をやる。
9時の登園(自由遊び中心) 
12時お昼(以後自由遊び)
2時の降園
その他諸々年間行事。
「何かを教えたりする時間は殆どありません。まずそこをご理解ください」
「一応、発表会や運動会みたいなものもありますが、大人が見て楽しむより、こどもが楽しんでやりたいことをやる感じですね。地味です」
まさに理想的である。ただ与えられたスケジュールをこなして行くのでは子供の自主性は育たない。
でも一番知りたいのは、入園についてである。
「定員は15名ですね。抽選できまります。外れた方は順位を決めて待機していただくか、私立幼稚園に行かれますね。今年は待機で5名入りましたね」
倍率は高いが、入れたら素晴らしいと美魚は思う。その理由の1つは格安だからだ。入園時に標準服という制服もどきを買うそうだが、8000円から9000円とのこと。その他準備品も微々たる金額。月謝は階層によるが、間鵜井家では6000円である。私立は入園金、考査料、設備費用、制服、用具類と初めにかかる。そして月謝は30000円近い。区の補助があってもかなりの金額になるだろう。公立って、タダみたいな値段だなと改めて思ったことだ。
申し込み書は10月に配布とのこと。
「では館内をご案内しましょう」
華美はなく質素その物なのがまた良い。子供の自由に任せて室内遊び、そと遊びがチョイスできる。園庭には手作り感満載の遊具。
(小屋やビールケースのキッチンなど)
今時のピカピカなキャラクター遊具など公立には無縁らしい。実に好感がもてる。園庭を遊んでいってよいとのこと。園児たちはばらけて数人ずつで遊んでいる。ほぼ自由時間しかないなんて…遊具はろくにないが、一応プールがある。砂場には水道完備。園庭の至るところで水しぶきがあがっている。彼らは水と泥があればそれで充分なんだろうか。野菜のプランターのイチゴはいずれジャムにして園児たちに出されるそうだ。職員は8人くらいが散らばって監督している。お遊戯や、楽器の音は聞こえない。給食食べてまた遊び呆けるだけなのか。いいな。
美魚は見学を終えて安魚に、
「ここ、いいじゃん。来たいね」
すると安魚は、
「来たくないけど」
「ただ遊んでりゃいいんだよ?」
「安魚はお母さんと友達だから」
1人で通うのが不満らしい。でもみんな親から離れて社会の中に放り込まれるんだよね。美魚も安魚をそうするつもりでいる。
漁太郎は別に幼稚園なんて行かせなくてもいいと言う。保育園や幼稚園に行かせない親は貧乏人のろくでなしのように思われそう。思われて平気な親は行かせないで済ませるのだろうか。タモリは幼稚園に行かなかったと公言していたが、それは彼の時代にも特別なことだったのだろうか。
幼稚園は教育機関であり、義務教育以前に必要なことを学習させる場所とのこと。だが、このこども園では学びは自主性に任せているという。遊び中心、遊びから学ぶこと。放任のように思われないこともない。保育園に毛がはえたくらいなのが美魚はいいと思うが、抽選に漏れたらどうしようね。

3歳の子供は平日ぶらぶらしないらしい

f:id:mauymiuo:20170514114416j:plain美魚はペン画をはじめる。安魚がしょっちゅうアトリエに
「お母さん迎えにきたよ」
と呼びにくるので進まない。漁太郎はGW中は持病の腰痛が悪化し、横になり入浴で痛みを和らげて過ごしたことだが、今日久々に安魚を連れて外出した。美魚は蒲団を上げて掃除機をかけると、出来るだけ進めようとペンをとる。
昨日は安魚に日本脳炎二期を接種させるため、再び病院を訪れた。女医は診察室に入ると安魚に向かって、
「今日はお休みしたの?」
と唐突に言葉をかけた。
「…ああ、まだ幼稚園いってないんだったね」
「はあ、来年です」
そうか、平日に予防接種にくる子はあまりいないのか。美魚はやっと意味が分かった。今回の安魚はまったく動揺せずに、接種を済ませた。強いねーともてはやす大人たちに、 
「痛いのは痛いけどね」 
などとコメントし、笑いをとる安魚。病院の横手には樹木の茂る公園があり、安魚は待ちかねて飛び込んで行った。折しも昼下がり。ベンチにはまばらにサラリーマン。貸し切り状態の砂場で安魚と泥団子をこねていると、つかつかと近づいてくるスーツの男性。美魚は多分コープ系のアンケートと言う名の勧誘だろうな、と待ち受けた。
「今日はー。今、ヤクルトさんを募集してまして」
なんだ、そっちか。ヤクルト購買の勧誘はときどきレディースの訪問を受けることだが、安魚がノコノコ玄関さきに出てくると
「可愛い!」
「今いくつですか?」
に続いて、
「今どこかに通ってるんですか?」
と聞かれることがある。
「いいえ、来年幼稚園の予定で」
これがレディースのタイムリーな受け答えらしく、
「一度ヤクルトの託児所の見学に来ませんか!」
と始まるのだった。
美魚は働くつもりはさらさらない。ヤクルトさんは週に5日も働いて、およそ5万くらいだという。頑張れば稼げます、皆子育て世代で、協力しあってます、お古を譲りあったり、子育ての相談もできます、お休みしたい時は前日に2本配ったりできます、今お時間あれば、託児所に見学にいきませんか!
矢継ぎ早に笑顔で説明する男性に、さも興味ありげに相づちを打っていた美魚は
「今んとこ働く必要ないんで、」
と笑顔で辞退した。
「あ、そうですかぁ。じゃあ」
男性は、早く言えと言わんばかりに公園から立ち去っていった。雨の日も風の日もヤクルト配れるガッツがあれば、まだ生活を安魚の幼稚園リズムに合わせられないという理由で二年保育をチョイスしたりはしない。世間並に子育てをするには、まずは環境。あらゆる方向性を幼児期に指し示すこと。そもそも美魚は3歳はまだ家にいて、ぶらぶら連れ歩く歳だと思うのだが、貧乏人の言い訳だろうか。

自己満足は不満足

f:id:mauymiuo:20170502082457j:plain漁太郎はフリマが好きである。安魚を連れてよく覗きに出かける。漁太郎と二人で自転車を並べて外出する時、およそ美魚は目的地を知らない。だが、土日などにわざわざ大きな公園に行くのはたいていフリーマーケット目当てだ。漁太郎は安魚の服を熱心に漁る。安魚はがらくたを物色し始める。その後ろにボンヤリ立っている美魚。所在なくうろつき始めた先に、目に痛いほど輝くジルコニアリングが並べられていた。思わず美魚は、右手に嵌めたリングと見比べてみたくなった。0・65カラットのダイヤを、0・53カラット相当のメレダイヤが囲む、母親のお下がりのノーブランドリング。大きなダイヤを有難がるバブリーな時代は終焉を迎えたが、美魚は好きである。トータルで1カラットはないとつまらない。ティファニーなら云うことなしだが、ティファニーを儲けさせる必要はない、と負け惜しみも出たりする。だが、大事な指輪はまるでジルコニアと大きさも輝きも変わらないではないか。手に取ればこちらはアームなど玩具感満載だが、一見どちらもダイヤであり、ジルコニアである。馬鹿な…
「着けて見てくださいねー」
声をかけられ、あわてて離れる美魚。
少しナーバスになったところに漁太郎が近づいてくる。
「あっちにヴィヴィアンあった」
見れば割と使用感の、黒いカード入れに小さくオーブのついた代物。
「1500円で」
と50代後半の女性が答える。いらない。目で漁太郎に伝える。
「じゃあ1000円でいいですよ」
それでもいらない。すると女性は
「これ、ブランドなんで…」
と安売りできないオーラを出すのだった。美魚は20年来ヴィヴィアンが好きである。その日も服、バッグ、時計を身につけていた。たとえパッと見ジルコニアだとしても、美魚はダイヤモンドなのを知っている。刻印されてるから。オーブがついて無くともこれらアイテムがヴィヴィアンなのを美魚は知っている。買ったから。ブランドは自己満足でしかないのだが、やはり他人の千里眼でも期待している自分がいる、と美魚は思う。やがて女性は、カード入れをノートや皿や、雑多なものの前に、また目立つように置き直したことだった。

モラトリアム続行中

f:id:mauymiuo:20170424072834j:plain新宿世界堂に行く。誕生日を迎えた美魚は、漁太郎にねだる物を考えていた。一番欲しかったのはティファニー。だがそれを言い出す事ができない。特にティファニーなど、大ブランドの価値を疑うことをモットーとしている漁太郎には絶対受け入れ難い代物である。美魚はメディウム数点とカラーインクセットを漁太郎に買ってもらった。世界堂を出て、伊勢丹が目に入るが、二丁目方面に足を向ける。ぶらぶら散歩しつつ、なんとなく曙橋まで歩く。そーだ、久しぶりにセツに行ってみたいな、と美魚は思う。だが、まったく思い出せないのだ。曙橋駅から出て、直ぐだったことは覚えている。フレッシュネスバーガーがチラッと目に入った時、美魚は十数年ぶりに記憶が蘇った。外観は経年を感じるものの、美魚が学んでいた頃とほぼ変わらないままであった。ちょうど卒業制作数点が展示されていた。懐かしのセツタッチ、かの伝統は受け継がれていた。美魚はこの絵が描けなかった。流れる瀟しゃなライン。ファッション画。憧れのA。美魚がしばしば指摘された「これは制作だね」の言葉は、今も頭に残る。確かに美魚はアートではない。制作である。アートとは伝統のラインを習得し伝承することなんだろうか。美魚は反発を覚えつつも、セツの雰囲気だけは愛していたことだ。美魚は年をとり、子供がいて、その子供をセツの前に立たせたりする。美魚はティファニーが欲しいと思ったりする。そしてそれを今自分で買う事ができない。会社員の頃なら簡単に買えたが、今は無理である。美魚は重たい世界堂の袋を指に食い込ませ、セツを懐かしそうに眺める自分に何となく嫌気がさして、石段を登った。

安魚の3歳児検診

安魚くん今日は3歳の子集まれー!の日だよー。3歳の子どもがちゃんと育てられてるか、チェックするんだね。
美魚と、この日の為に休みをとった漁太郎は、安魚を連れて保健センターに向かった。面談 身体測定 栄養相談 内診 歯科検診でほぼ一時間。何も問題なしである。虫歯が1本もないのが褒め処か。漁太郎は栄養相談では饒舌をふるい、美魚は他の母親の服装やアクセサリーが目につき、安魚は他の子どもを気にしていた。家に帰ると安魚は美魚に、
「安魚ね、かわいい女の子が気になったの」
「ふーん。近くにいたっけ?」
「離れたとこに座ってたの」
漁太郎がすかさず
「安魚もかわいいスカート欲しいのか?かわいい髪型にするか?」
と尋ねる。 
「安魚明日スカート買いに行く」 
またか。漁太郎はなぜか安魚を女装させる。彼が買うのはほぼ女児服だ。ピンクやハートやフリルが恐ろしく似合うのは、安魚がこけしソックリのおかっぱ頭なことと、こけしソックリの顔の輪郭にある。だが、初めは親がなんも分からない子どもに勝手に着せてたものが、次第に安魚のジェンダーを揺るがせたのも美魚は知っている。女は作られる、と云うのは本当だと美魚は思う。
「安魚を混乱させないで、こいつ自分を女の子だと思ってるよ」
「安魚の個性を否定すんなよ!」 
あーあ、またそれかよ。もうどうにでもなればいいよ。でもスカートだけははかせたくない。美魚は頭が固いんだろうか。面談で安魚の前に二冊の本が並べられていた。乗り物とくだものの絵本である。熟年保健師は 
「どっちが好き?」
と安魚に尋ねる。当然乗り物を手に取る。安魚ははやぶさが好きだからだ。これは一応何かのテストなんだろうか。だが、彼女は安魚がスカートをはきたいことは知らないのだ。今日の服装も男の子寄りにしていることだし。漁太郎は「またそれ着せてる」となじるが、この場で女児服着せるとめんどくさいじゃん。
f:id:mauymiuo:20170415092153j:plain

イケアリメイク額

f:id:mauymiuo:20170409072946j:plain美魚はイケアフレームのリメイクをする。紙粘土は扱いやすいのであっという間に仕上がる。もう雨が3日も続いて、安魚を遠出させる事ができない。安魚は昨日、ご飯どきに漁太郎に怒られて、へのじぐちして涙を二粒つつ~っと流した。漁太郎は安魚に怒る時も本気なので横で見ていてドキドキする。父親が怖いと云うのは良いことのような気もするが、美魚は自分の父親が凄く怖かったので、あんまり好まない。漁太郎の怒りには理由があり、家庭でしつけをするのは親の義務である。しつけをする怒りは正統性があり、虫の居所の悪い怒りはただの八つ当たりである。美魚の父親は怒ると木刀を振り回すのでたちが悪かった。食卓にいきなり降り下ろされる木刀の破壊力は絶大で、子どもの頃の食事どきはまったく楽しめなかったことだ。第一に彼はしらふではない。第二に彼は人格が崩壊していた。第三に彼は何時も家にいた。煙たくて不必要な存在、それが美魚の父親であった。漁太郎は酒をまったく飲まないし、少しうるさいがちゃんと理由があり、この食事も全て彼が調理したものである。安魚は
「わかったか」
で解放されると、美魚に抱きつき慰撫され、けろっと食事を再開した。普通っていいな、と美魚は思った。