安魚喘息になる?
もう来なくていい、と医師に云われたものの、あまりにも咳が続くので、こども園から一番近い、別の小さな医院に安魚を連れていく。一時半から午後の診療なので都合がよい。
美魚が子供の頃に連れていかれたのは、こんな病院だったよな、と感じる昭和で止まっている個人医院。院長婦人の手芸作品が展示してある感じの…。清潔感があり、安心できる。
スリッパを履いて、受付をする。これまでの経緯、平熱であることなどを話す。
名前を呼ばれて診察室に入ると、看護師と、オーバー80もしくは90と思われる院長が迎えてくださる。
おもむろに安魚の熱を計る。
体温計を美魚に向けて
「何度ですかお母さん」
「36度9分です…。」
「あと一度で37度ですね!これは平熱ではなく、微熱というのですよ!」
いきなり叱られてしまう。
ざっと診察をされて、院長は
「初めは風邪だったのが、喘息を惹き起こしたのです、アレルギーも軽くあります。」
「うちは漢方で治します。今、4歳ですね。6歳迄にはこれで完治します」
とのことである。
喘息って、なんだ?アレルギーなんて、初見で分かるのか?最近安魚が押し入れに入ることを覚えたことなど、頭をよぎる…。
受付で処方された薬を受けとる。薬局じゃないのが久々だと思う。
容器代100円のみ。
二年間も薬が必要なんだろうか?(タダだけど)ほんとかしら。
喘息という病気なのかしら…。
因みに最初の画像は先日オフハウスで買ったボードゲーム。見てるだけで楽しい80年代アニメの力。
安魚がだだこねる
安魚が風邪をひく。大したことはなさそうだが、病院に連れていく。
受付でどうされました?と尋ねられ、美魚が答えようとする先に
「咳がたくさんでますが、スピードは変わりません」
と安魚が答える。医師にも、薬剤師にも同様である。
安魚には病院=マクドナルドとインプットされていて、今日も行く気満々である。
帰り際に病院のロビーにある自販機に気づいた安魚は、ブドウジュースをねだり始めた。
「これ買ったらマックは行かないからね?」
と美魚は念を押す。
果たして安魚はジュースを半分飲んだあとに蓋を閉めて
「これ明日の分ね、マクドナルド行こう!」
と言い出す。
困るのは、薬局の前にマクドナルドが在ることで、当然そうなると予測済みだった。ブドウジュースを買い与えた時点で美魚が駄目なのである。
安魚はマクドナルドに駆け込み、勝手に
「ポテト下さいあと、ソフトクリーム」
と順番も無視してカウンターにオーダーするではないか。
美魚は引きずり出して、さっきの約束どこいったの!と安魚をしかり、自転車に連れていこうとしたが、ここから本気で駄々をこね始めた。
行くのー!行くのー!マクドナルド行くのぉー!と泣きわめき、じたんだを踏み、小刻みに動き回り、店内に駆け込もうと美魚を引っ張り、その姿は通行人の晒し者になり、お店に迷惑をかけ、何より美魚は腹を抱えて笑いたいのを噛み殺さなくてはならない。
なにこいつ、オモシロイな。
こんなにお馬鹿な真似ができるやつだったのか。
美魚は悪魔将軍ばりに
「きさまー!私を裏切りおって、どうなるのか、わかっているんだろうなー!」
と叱らなくてはいけないのだが。
20分くらい喚かせたあと、美魚は安魚にひっぱられてマクドナルドに入りポテトを買った。
この顛末を夜漁太郎に話したところ
「バカ親とバカ子供」
うん、私、バカ親なの!
安魚はバカ子供だよ。
でも、すごく面白かったから…。
ぼこぼこにしても俺なら言うこと聞かせるし、第一俺にそんな真似はしたことがないという。
安魚のじたんだを一度くらい見ればいいのに。オモシロイよ。
暫くはマクドナルドは行きませんけどね!
移動ポケットは悪魔将軍
[
こども園での生活にも大分慣れた昨今。
気になるのは、
子供たちが腰にぶら下げているポシェットのようなモノだ。
あれは、なんだ?
ちょうどつけてる子のお母さんがいたので、
お訊きしてみた。
移動ポケットなるもので、
ズボンや、スカートなどのウェスト部分にスナップでぶら下げるのだと言う。
簡単ですよーとのこと。
美魚は早速作ってみた。
ダイソー端切れと、古いスカートを使用する。
スナップは手芸店にて購入した。
ドラえもんブルーで揃える。
いざ、作り始めると、全然簡単じゃねーの。
畳み方が全然分かんない。
四苦八苦しつつ、八時間くらいで完成したことだ。
安魚に着けてみる。
「あー、これ、悪魔将軍じゃん!」
安魚は腰にぶら下げた感じをそう表現する。
あー?そうか?
悪魔将軍の両太ももの上らへん?
よくわかんないけど気に入ったようである。
後日、その教えてくださったお母さんが、
作ったんですねーと気づいて下さった。
安魚は
「これ、悪魔将軍!悪魔将軍のポシェットなの!」
お母さんは
「あくま?、しょうぐん?」
と首をかしげる。
美魚が
「あー、キン肉マンていう昔のアニメに出てくる安魚のお気に入りのキャラクターで、」
と補足を試みるが
「きんにく?、まん?」
もうそこが通じないのであった。
(実際、ドラえもんだし)
旦那様なら、もしかしたらご存知かもしれません…。
祝 入園
安魚がこども園に通い始める。
入園式には漁太郎も出席。
美魚はヴィヴィアンのスーツを下ろせて嬉しい。
今だに君が代は斉唱するんだな、と感心していると、区民の歌斉唱。
知らないよ。存在すら。
在園児は元気に歌っておる。
園の歌が続き、着席。
漁太郎に親戚に配る用の記念写真を頼むが、
データーが消失。
…カメラマンがスナップを撮影していたのでそこに期待する。
あー、長かった四年間。
安魚はこども園。漁太郎も仕事。
美魚はフリーダムである。
嬉しい。
まだ短縮保育なので11時にはもう帰ってくる。
それでも来月には2時まで預かってもらえる。
その時間は千金にも値することだ。
嬉しい。
なんかすごく嬉しい。
ノラが行く
ノラが死んだ夜、漁太郎はノラを自分の枕に乗せて眠った。いつものシルエットだ。まるい物体に三角の耳。
ノラが死んで、抱くのをやめた美魚は、寝床にそっと戻した。
不思議なことにノラはいつもの様に身体を伸ばし、枕に頭を乗せて、手を箱の縁に乗せる。
リラックスして、気持ちよさそう。
ずっとこんな姿を見てなかった気がする。やっと楽になったね。
次の日起きるとノラの棺が漁太郎によって用意されていた。
それは安魚が使っていたベビーバスケットだった。
ノラは布団からちんまり頭を出してる。
漁太郎が仕事なので葬祭の手配を美魚がする。
2年前みーちゃをお願いした寺院に連絡すると、9時から12時でお迎えにあがるとのこと。
みーちゃは1日空いたのに、早い。
安魚と花を買いに行き、カルカンとカリカリをお弁当に持たせる。
9時半にはあの白いバンが私道に入ってきた。
ああ、もう行ってしまう。
ノラをバンの荷台まで運ぶ。
既に悲しい遺骸が奥に積まれていた。
その手前ににノラのバスケットを置いた。
近所のおばさんが窓から私道を見てる。
頼むから何も話しかけないで…合掌。
車は府中の本院へ向かうという。
明日火葬され、翌日分園に遺骨の一部が戻る。
みーちゃとやっと一緒になれるね。
2匹いた猫が2匹ともいなくなってしまった。
淋しい。
猫がいないなら三泊四日以上旅行ができるではないか…
それだけだな。
ノラが死ぬ
3月29日、ノラが死んだ。
ノラは2月から徐々にガリガリになり、足腰もふらつき、猫としての能力を失う。ジャンプはおろか、低いスツールによじ登ることも出来ず、階段も登れなくなった。シモはまだしっかりしていた。猫はシモが出来なくなると終わりだ。
最後の日、ノラが階段の下で鳴いていた。
2段ほど登り、肩で息をしている。
2階に行きたいんだな、と抱き上げ、お気に入りの窓際のスツールに乗せた。
すると、美魚の膝にのる。
ありがとう、
と言っているようだった。
身体は骨と皮ばかりだが、眼だけは星のように冴えている…。
その夕方はいつものように、ノラは台所のエサ皿の前に座って帰宅した美魚と安魚を待っていた。
またおねだりか?
と少し放って置いた。
漁太郎はあらゆる種類のパウチエサを用意し、小皿は三、四皿置かれてある。
ノラはそれでも他のが欲しい、とよく訴える。
ノラは突然倒れた。
そして尿を漏らした。
あっ?!
ノラは立ち上がろうとしてもがき、
大きな口を開けて嘔吐するようなしぐさをした。
だがそれは、息を吸おうとして、吸えないのだと分かった。
ノラが死んじゃう、今死んじゃう!
漁太郎が居ないのに、死んでしまう!
ノラは怖がっている。にゃおーっっと鳴いて、
もがく。苦しいのね。
美魚は溺れてゆくようなノラを夢中で引き寄せ、
大丈夫、と声をかけた。
大丈夫、大丈夫…怖くない。
安魚はTVを見てて、呼んでもなかなか来ない。
「ノラは死なないよ!」
といい放ちまた行ってしまう。
もがく事5分くらいか。ノラは最期の一息を吸おうとして、吸えず、遂に死んだ。死ぬのを看取ったのは初めてだったので、ショックだった。
「ノラが死んじゃったー!!!」
安魚は走ってきて
「ノラは死んでないよ!」
ノラは口を大きく開き、舌を垂らしている。歯が汚い。もうこんなだったのか。抱き上げるとぐにゃぐにゃなんだよ。首がガクガクなんだよ。
なのに身体はあったかいんだよ。
「ウォーズマンだって心臓止まっても生きかえったよ!ノラは死んでないよ!冬眠したんだよ!」
安魚がきーきー喚いてる。美魚も負けずに泣き喚いていた。
あー…あー死んじゃったよう。
可哀想に。
でも最期まで頑張った。偉いなあ。
生を立派に完結させたんだねえ。
抱いていたノラは30分くらい温かく、柔らかだった。
撫でているうちに、開いた口は閉じて、まるで寝てるだけみたいだった。
ノラはガリガリになってから何時も苦しそうだった。ここ数日はろくに眠れない様で、漁太郎にへばりついていた。漁太郎はノラの寝床に毎日湯タンポを入れていたのに、漁太郎の枕に乗って休んでいた。
その夜仕事先から急いで戻った漁太郎は泣きながら
「きのうもうダメだと思ったんだよ」
「ノラほんとに苦しそうでさー」
いつか死ぬのは分かっていた。
臨終は5分間でも、生は14年。
死のカウントを見るとき、美魚は巨大なコンピュータールームが浮かんだ。
端から電源が落とされてゆき、最後は真っ暗になり、静寂が訪れる。
身体は静まり、心は大きく膨らんで、何処へ行くのか。
当然そのときはこんなに冷静ではない。
安魚4歳になる
秋葉原のまんだらけに行き、安魚の大好きな悪魔将軍を探す。
無かった。
七人の悪魔はあったが、高い。
安魚はキン肉マンとテリーマンのフィギュアをプレゼントに買ってもらった。
3歳の時のプレゼントは妖怪ウォッチだったなあと懐かしく思い出す。
また来年には、何が好きかなんて分かりはしない。
4歳を迎え、3歳までの心理的な優待券の期限が終る。
そう、3歳までは世間様に甘える気持ちがやはり否めない。
ふりかえれば赤ん坊がいくらでも生まれてくる。
もう安魚は赤ん坊ではない。
隣の家の嫁にいった娘は、美魚に半年遅れて子供が生まれた。
この間久々に見たら、先の子供を連れて、赤ん坊をだっこしていた。
二人目か。
伏し目がちなのは優越感か。
2回くらいは育てたほうがいいのかもな。
今育児は9割旦那さんが見ている。
美魚は風呂に一緒に入って、一緒に寝る時に本を五、六冊読むくらい。
家事全般旦那さんが執り行っている。
じゃあ美魚はなにをしているのかといえば、
ぼんやりしているんだよな…。