マウィミウオの世界

間鵜井美魚の生活雑記録

安魚の予感

f:id:mauymiuo:20170515074553j:plain先日、美魚は安魚を連れて東京メトロに乗った。大した用事はないが、2駅先の街をぶらつくつもりであった。自転車で行ける距離だが、安魚は電車に乗りたがる。美魚の家から駅までおよそ徒歩8分。だが、3歳の足だとまともに歩いて18分はかかる。この日安魚はいつにも増して全然歩かない。半分の道程に優に30分はかかっている。美魚はしびれを切らせて安魚の手を引っ張って駅へ向かう。信号を渡れば駅である。美魚が安魚の手を握って渡たり始めると、彼は突然わめき始めた。
「離してーっ!帰るのぉ!」
安魚は横断歩道にしゃがみ込み、びっくりするほど抵抗する。
美魚はズルズル安魚を引き摺って明滅する青信号を渡り終えると、帰る!を繰り返す安魚にイライラして尋ねた。
「なんでっ?乗りたいんじゃないのっ?」
安魚は普段電車が大好きである。去年の夏の猛暑日などは、乗り継ぎを繰り返し、終日電車に揺られていたことだ。電車と言うだけでいそいそ出かけたこいつが、今、予防接種を嫌がるどこぞの子供のごとく泣きわめくのが解せない。大した用事はないがここまでたどり着くまで40分はかかった美魚は引き返すのも癪だった。またズルズル安魚を引き摺って改札を入り、強引に電車に乗り込んだ。すると安魚は
「ギャーッ!!降りるのぉ!」
と大泣きを始めた。さすがの美魚も電車を降りるしかない。
「なんでなのぉ?」
発車した電車を尻目に安魚をなじる。安魚は泣きじゃくっているだけだ。
「分かりましたよ帰りますよ」
美魚がエレベーターに向かおうとすると、今度はもう一人の安魚が出てきて美魚の足にしがみつき、
「帰らないよ!電車に乗るのぉ!えっえっえぇ~」
お茶を飲ませて落ちつかせ、美魚は次の電車に乗り込んだ。ケロリとしてご機嫌な安魚に尋ねてみた。
「さっきはなんであんなに騒いだの?」
「さっきやな感じがしたから」
「それで乗りたくなかったの?」
「そう」
ホントかしら。魔に遭遇しそうだったのかしら。単なる気まぐれ…。しかし、安魚はふだん人前でギャーギャー泣きわめくことはない。美魚もそれをもてあまし怒りに震え立ち尽くす母親を演じたことなど一度もない。(いや、そんなに怒ってないんだけど。)
美魚はふと、第六感という言葉が閃いた。何事もない日々に魔はすれ違う。魔は人間をよけて通るが、人間がわざわざぶつかるものだと泉鏡花草迷宮にそんな感じに書いてあった気がする。美魚は嫌がる安魚を魔に遭遇させようとしていたのであろうか。
目的の駅に着き、マルイ直結の連絡通路をその日は何故か忘却し、わざわざ反対側の遠い地上出口に出てしまったことも、美魚をしてキツネに摘ままれたような気分にさせたことであった。ぶらつく気力の失せた美魚は東急ハンズでピタリングを買い、安魚にイチゴのパンを買った。これだけのことにこの大騒ぎ。
その日の教訓は、
「さっさと止めて帰れよ!」
それ以上でもそれ以下でもないのであった。