マウィミウオの世界

間鵜井美魚の生活雑記録

親にむかってなんだ!その台詞

安魚は3歳3ヶ月にしては口が達者であると美魚は思う。一人っ子であり、男の子であり、特定の友だちもいない、テレビっ子であるが、世にいう言葉の遅れる原因全てをクリアして、2歳始めには既に機関銃のようにつたない言葉を並べていた。
先日、寝しなに美魚は安魚の横に腹這いになり、絵本の読み聞かせをしていた。
安魚がどんどん体をひっつかせてきて狭い。美魚の顎の下に潜り込ませていた彼の頭を、いきなり上に動かしたのでぶつかって凄く痛かった。
「痛いなあ!狭いよ!そんなひっつくと」
美魚が文句を言った直ぐあとに安魚は言い返してきた。
「おまえがデカイから布団が狭いんだろ!」
達者というより、ぞんざいなのか。

安魚は恐ろしいことを平気で言う。
「お母さんなんてやっつけてやる!まずは扇風機で痛めつけて、窓から放り投げて、それから土に埋めて、ありさんに食べさせて、それからばらばらにして、それから骨にさせて、それから川に流す!」
それ、誰に教わったの?アンパンマンですか?それともティーンタイタンズですか。まさか、漁太郎?息もつかずなんてことを予告するのか。可愛い声で。

漁太郎は実家に帰るとよく彼の母と口論になる。この前のは彼の父の墓参に行った折である。
何の気なしに始めた会話から始まるが、余りに度重なると
「もううんざりだよ!」
義母が切れる。
「じゃああんたが納めればいんだよ」
「たまに話す時くらい人を思んばかった言い方しなさいよ!もう我慢の限界!」
「出来ない。そんなの俺のストレスになるもん」
安魚は
「けんかやめて~」
とうろうろ。
美魚はこの場に一滴の血も関わっていないので黙って眺める。
この親子は愛しあっているのでお互いに傷つけあっている。
私は親だ!思んばかれ!
俺は子どもだ!受け止めろ!
とお互いの立場を譲らない。
その場を楽しく、和気あいあいと孫をまじえた家族ごっこするよりずっとマシだと美魚は思う。それに要らんことを言って二人を怒らせるのではつまらない。
「美魚は俺らよりハートがマッチョだ
よ」
いきなり漁太郎が矛先を向けてきた。
「美魚は俺とは違う。美魚は親をもっとこてんぱんにやっつけていた」
どういうこと?
「まあ、あなたたちは二人とも似てるんですねー愛しあってますねー羨ましいですほんと」
美魚は無意味にへらへら笑って誤魔化した。


安魚は美魚に
「愛してるよ、お母さんが一番好きだよ」
と囁いたすぐあとに
「お母さん大嫌い。大きくなったらやっつけてやる!」
と手のひらを返す。
どちらも本当の安魚の気持ちなのだろう。
美魚は自分が、将来漁太郎の母ちゃんみたいになりそうだなと予見している。安魚も成長と共に、漁太郎のようにトゲトゲの断定的な言葉で追い込んでくるだろうか。美魚が学習したことは、そこに感情的になると負けるということだ。それでもやっぱり美魚は
「親に向かってなんだ!その台詞!」
3歳の子どもに向かって感情的に言ってしまうことだ。