マウィミウオの世界

間鵜井美魚の生活雑記録

ノラが死ぬ

3月29日、ノラが死んだ。
ノラは2月から徐々にガリガリになり、足腰もふらつき、猫としての能力を失う。ジャンプはおろか、低いスツールによじ登ることも出来ず、階段も登れなくなった。シモはまだしっかりしていた。猫はシモが出来なくなると終わりだ。
最後の日、ノラが階段の下で鳴いていた。
2段ほど登り、肩で息をしている。
2階に行きたいんだな、と抱き上げ、お気に入りの窓際のスツールに乗せた。
すると、美魚の膝にのる。
ありがとう、
と言っているようだった。
身体は骨と皮ばかりだが、眼だけは星のように冴えている…。

その夕方はいつものように、ノラは台所のエサ皿の前に座って帰宅した美魚と安魚を待っていた。

またおねだりか?

と少し放って置いた。
漁太郎はあらゆる種類のパウチエサを用意し、小皿は三、四皿置かれてある。
ノラはそれでも他のが欲しい、とよく訴える。

ノラは突然倒れた。
そして尿を漏らした。
あっ?!
ノラは立ち上がろうとしてもがき、
大きな口を開けて嘔吐するようなしぐさをした。だがそれは、息を吸おうとして、吸えないのだと分かった。
ノラが死んじゃう、今死んじゃう!
漁太郎が居ないのに、死んでしまう!
ノラは怖がっている。にゃおーっっと鳴いて、もがく。苦しいのね。
美魚は溺れてゆくようなノラを夢中で引き寄せ、大丈夫、と声をかけた。
大丈夫、大丈夫…怖くない。
安魚はTVを見てて、呼んでもなかなか来ない。
「ノラは死なないよ!」
といい放ちまた行ってしまう。
もがく事5分くらいか。ノラは最期の一息を吸おうとして、吸えず、遂に死んだ。死ぬのを看取ったのは初めてだったので、ショックだった。

「ノラが死んじゃったー!!!」
安魚は走ってきて
「ノラは死んでないよ!」

ノラは口を大きく開き、舌を垂らしている。歯が汚い。もうこんなだったのか。抱き上げるとぐにゃぐにゃなんだよ。首がガクガクなんだよ。
なのに身体はあったかいんだよ。

ウォーズマンだって心臓止まっても生きかえったよ!ノラは死んでないよ!冬眠したんだよ!」

安魚がきーきー喚いてる。美魚も負けずに泣き喚いていた。
あー…あー死んじゃったよう。
可哀想に。
でも最期まで頑張った。偉いなあ。
生を立派に完結させたんだねえ。
抱いていたノラは30分くらい温かく、柔らかだった。
撫でているうちに、開いた口は閉じて、まるで寝てるだけみたいだった。

ノラはガリガリになってから何時も苦しそうだった。ここ数日はろくに眠れない様で、漁太郎にへばりついていた。漁太郎はノラの寝床に毎日湯タンポを入れていたのに、漁太郎の枕に乗って休んでいた。
その夜仕事先から急いで戻った漁太郎は泣きながら
「きのうもうダメだと思ったんだよ」
「ノラほんとに苦しそうでさー」

いつか死ぬのは分かっていた。
臨終は5分間でも、生は14年。

死のカウントを見るとき、美魚は巨大なコンピュータールームが浮かんだ。
端から電源が落とされてゆき、最後は真っ暗になり、静寂が訪れる。
身体は静まり、心は大きく膨らんで、何処へ行くのか。

当然そのときはこんなに冷静ではない。