マウィミウオの世界

間鵜井美魚の生活雑記録

妖精に要請される時

去年の春辺りから、美魚は道端に落ちているゴミが何故か気になってたまらなくなり、安魚を園に歩いて送る往復40分間に、なんとなく拾い始めた。
レジ袋に始まり、菓子の個別包装、スナックの袋、からあげくんのパッケージ、団子の串、おにぎりのラップ、マックの捻られた紙袋、アイスの袋、アイスの棒、缶、ペットボトル、弁当殻、使用済みマスク、ティッシュ、タバコの箱、タバコの吸殻など、およそ歩きながら捨てていったと思われるゴミの数々を、トングとポリ袋を持参して拾い歩いた。
拾い始めると、ゴミしか目に入らなくなり、人目も気にならず、不思議とゴミへの怒りも感じないものである。
同じ園のママに目撃されても挫けずに、園の前でも平気で拾い、門の前に立っている職員にはやや、当て付けに見えたらしく、
「いいですあとで掃きますから!」
「きれい好き!」(皮肉か?)
などと注意されたりして、拾いづらいな、と舌打ちをしたりした。
公園に行けばベンチの酒盛りの後を片付け、弁当殻を集め、それでも一銭にもならない。無料奉仕なのだから。
雨の日は傘を射してまで拾い、知らないおっさんに「奥さん!ありがとう」
「なかなかできることじゃないよ!」
「きりがないでしょ?」
などと通りすがりに声をかけらる。

そんなことを安魚を巻き込みつつ、暫く続けていたら、歩く道が見違えるほどきれいになった。
トングとポリ袋が必要なくなってきたのだ。
往復でパンパンになっていたゴミは減少し、半年が経過したあとでは缶を一つ拾うくらいになった。
公園に放置される酒盛りの後のゴミ、弁当殻は姿を消した。
なので美魚はゴミ拾いを止めた。

美魚の役割は終わったのだ、と感じたのは、ゴミを拾うのをやめてからも道はきれいなのである。
これまでは3日も経つと元に戻っていたのに、不思議なくらいゴミがない。
纏められた弁当殻を見て、あとで拾おう、と思うと帰りにはなくなっている。
その理由が最近分かった。
別の人が嘗ての美魚のようにゴミ拾いをしているではないか。
それはおばさんだったり、おっさんだったりして、めったに目撃できないが、確かに拾って歩いてる人がいる。
ゴミ拾いは町会で要請されたり、PTAのゴミゼロ運動とかでイベント化したりして、面目を保ちつつやるもので、天下の往来のゴミ拾いを自主的にやる人は少ない。
自主的に始める時には、妖精に要請されるのである。
ゴミを捨てるな、環境破壊、と小学生の描いた怒りに満ちたポスターをフェンスにべたべた貼るよりも、ゴミを拾ってください、地球を愛してください、と妖精にやんわり伝えられる方が効果的なのだと美魚は思う。
報酬がいつ届くか、楽しみである。