マウィミウオの世界

美魚の生活雑記録

みーちゃの思い出

f:id:mauymiuo:20190710202752j:plain今日で安魚は3歳4ヶ月になる。そして今日はみーちゃの一周忌である。みーちゃとは12年飼っていた雌のアビシニアンだ。
みーちゃは脇の下にこりこりした塊が出来てから、少しずつこりこりが全身に広がって、大好きな銀のスプーンのカリカリを食べなくなった。たまにしか与えなかったカルカンパウチに替えたら、ムクッと起き上がってふたくちくらい食べたので、以後与え続けた。食欲の権化で、七キロもあったデブシニアンが、最後は三キロ以下にやせこけて、そして遂に死んでしまった。
ガリガリで足腰が立たず、死ぬ数日前からトイレに行けなくなった。漁太郎が
「いんだよいーんだよ」
と体を綺麗に拭いてやると、みーちゃはすまなそうにムームー鳴いた。哀れであった。
みーちゃは漁太郎になついていたので、死んだ朝も漁太郎の枕元だった。
「おい、おい!」
漁太郎が美魚を起こしたのが朝の7時くらい。まだ体は柔らかいままで、本当にひっそりと死んでしまったのだった。
漁太郎はみーちゃを抱いて号泣した。美魚は、もっとしてやれることがなかったろうか、と後悔した。涙にくれる二人に2歳の安魚は
「心配しないで、そんなに心配しないで」
と繰り返し言うので余計悲しくなった。
二軒となりの家の5歳の雄猫が、みーちゃより少し前に腎盂炎で死んだそうで、飼い主のじいさんは2日おきに自転車で点滴を打たせに病院へ通ったそうである。やっぱりその猫も怖いくらいにガリガリで、何も食べず、鼻水をたらしてぶるぶる震えていた。
じいさんはそれでも2ヶ月延命させたそうだが、美魚たちはみーちゃの延命をチョイスしなかった。あの腫瘍はがんだったのだろうか。病院で早めに手術をしたら元気になったんだろうか。等々美魚はみーちゃの亡骸をみて考えたことだった。
みーちゃは深大寺のペット霊園の分園にて供養していただいた。葬儀と火葬を深大寺で行い、遺骨の一部を分園に納めるのだという。引き取りまで一日あって、みーちゃの通夜を家族三人で行った。いつも入っていたバスケットに、花びらを食べるのが大好きだったみーちゃを安魚と花で埋めた。エアコンを強めにして、保冷剤を敷き詰めたのだか、半日くらいで匂い始めた。
翌日、迎えの車がやってきた。小さな白いバンだったが、係員の神妙さはなかなかだった。
みーちゃはバスケットごと車の中に納められた。ひんやりとして薄暗い中にもう一体、奥に段ボールが入っているようだった。
係員は扉を閉じて、車は出発した。美魚たちはまた涙が溢れた。
「みーちゃは車でいっちゃった」
しばらく安魚はそう言っていたことだ。
みーちゃは美魚の飼った2匹目の猫。だが、いつのまにか漁太郎の猫になってしまった。子猫の頃は美魚の腕に飛びかかり、かじりついてローリングするのが得意技であった。太り始めてからは一日中丸太のように台所に転がっていた。
顔だけ可愛いかった。
「みーちゃはみーちゃの国から帰ってくるよ」
「またみーちゃに会えるよ」
と安魚は予言をする。
美魚は今日、安魚を連れて近所の分園にお参りに行くつもりである。

ピンクピン太郎 瀧に届く

ピエール瀧さんがピン太郎ニュースをラジオで語る。それを漁太郎がYouTubeで美魚と安魚に聞かせた。
「トトロのメイちゃんみたいな女の子が、赤ちゃんパンダの名前はっ?て聞かれて、うーんと、うーん…。ピンクピン太郎!だって。(爆笑)」みたいな感じに喋っておられた。
確かにニュースの安魚は可愛かった。普段もあんな感じだけど、5割増しに可愛かった。
安魚に
「遂にピンクピン太郎が瀧に届いたよ」
と往年の電気ファンの美魚が言うと安魚がスマホを奪う。
「ピンクピン太郎が天井まで届いた画像みるー!」
違うけどね。

親にむかってなんだ!その台詞

安魚は3歳3ヶ月にしては口が達者であると美魚は思う。一人っ子であり、男の子であり、特定の友だちもいない、テレビっ子であるが、世にいう言葉の遅れる原因全てをクリアして、2歳始めには既に機関銃のようにつたない言葉を並べていた。
先日、寝しなに美魚は安魚の横に腹這いになり、絵本の読み聞かせをしていた。
安魚がどんどん体をひっつかせてきて狭い。美魚の顎の下に潜り込ませていた彼の頭を、いきなり上に動かしたのでぶつかって凄く痛かった。
「痛いなあ!狭いよ!そんなひっつくと」
美魚が文句を言った直ぐあとに安魚は言い返してきた。
「おまえがデカイから布団が狭いんだろ!」
達者というより、ぞんざいなのか。

安魚は恐ろしいことを平気で言う。
「お母さんなんてやっつけてやる!まずは扇風機で痛めつけて、窓から放り投げて、それから土に埋めて、ありさんに食べさせて、それからばらばらにして、それから骨にさせて、それから川に流す!」
それ、誰に教わったの?アンパンマンですか?それともティーンタイタンズですか。まさか、漁太郎?息もつかずなんてことを予告するのか。可愛い声で。

漁太郎は実家に帰るとよく彼の母と口論になる。この前のは彼の父の墓参に行った折である。
何の気なしに始めた会話から始まるが、余りに度重なると
「もううんざりだよ!」
義母が切れる。
「じゃああんたが納めればいんだよ」
「たまに話す時くらい人を思んばかった言い方しなさいよ!もう我慢の限界!」
「出来ない。そんなの俺のストレスになるもん」
安魚は
「けんかやめて~」
とうろうろ。
美魚はこの場に一滴の血も関わっていないので黙って眺める。
この親子は愛しあっているのでお互いに傷つけあっている。
私は親だ!思んばかれ!
俺は子どもだ!受け止めろ!
とお互いの立場を譲らない。
その場を楽しく、和気あいあいと孫をまじえた家族ごっこするよりずっとマシだと美魚は思う。それに要らんことを言って二人を怒らせるのではつまらない。
「美魚は俺らよりハートがマッチョだ
よ」
いきなり漁太郎が矛先を向けてきた。
「美魚は俺とは違う。美魚は親をもっとこてんぱんにやっつけていた」
どういうこと?
「まあ、あなたたちは二人とも似てるんですねー愛しあってますねー羨ましいですほんと」
美魚は無意味にへらへら笑って誤魔化した。


安魚は美魚に
「愛してるよ、お母さんが一番好きだよ」
と囁いたすぐあとに
「お母さん大嫌い。大きくなったらやっつけてやる!」
と手のひらを返す。
どちらも本当の安魚の気持ちなのだろう。
美魚は自分が、将来漁太郎の母ちゃんみたいになりそうだなと予見している。安魚も成長と共に、漁太郎のようにトゲトゲの断定的な言葉で追い込んでくるだろうか。美魚が学習したことは、そこに感情的になると負けるということだ。それでもやっぱり美魚は
「親に向かってなんだ!その台詞!」
3歳の子どもに向かって感情的に言ってしまうことだ。

安魚の将来の夢は?

f:id:mauymiuo:20170624065331j:plain安魚は少し前にケーブルテレビで放送されていた魔法の天使クリーミーマミが大好きであった。
「安魚くんは大きくなったら、何になるの?」
の問いに
「安魚は大きくなったらマミちゃんになる!」 
と宣言。かつて多感な少女であった美魚も、やはりマミちゃんになりたかったなぁと懐かしく思い出す。
先日中野ブロードウェイのショーケースに、マミちゃんのステッキが未開封で80000円くらいで販売されていた。当時も美魚には手の届かない代物だったが、80000円では安魚に買ってやることは到底不可能である…。

少女の美魚は、家ではいつもコソコソ絵を描いていた。絵と云っても落書きに等しいものであるが、色鉛筆で着色したりして、自分では作品のつもりであった。なぜ隠れて描くのか、と云えば、兄が馬鹿にするからだ。あれは多分、クリーミーマミちゃんの絵だったと思う。わりと上手く描けたな、と一人で満足していたことだが、
「お父さんー。美魚がこんなの描いてたー」(半笑いで)
兄は隠してあったはずのマミちゃんの絵を引っ張り出すだけでは飽きたらず、父のところに持っていって二人がかりで嘲笑したのだった。
悲しかったなぁ。
少しくらい絵が上手いからと云って、2歳下の妹の絵を笑い物にして、何の得があるのか。
少し前に兄から聞いたことがある。
「俺は子どもの頃はいつもアンテナを張ってお父さんに対処していた」
つまり、美魚を父と二人で笑い者にすることで保身を図っていたということか。やはり嫌なやつだったと美魚は思う。

因みに安魚はおじゃ魔女にもなりたいらしい。もっと以前は
「安魚はプリンセスになる!」
と宣言していたことだ。
なれないけどね。

間鵜井邸

美魚は引っ越しをしたいと思っている。今の家は昭和の建て売りの中古である。築38年。床の間にボコボコした柱があったり、家の窓ガラスが全部すりガラスだったり、トイレが和式だったりしてとてもレトロで気に入ってはいる。
だが、ボロボロなので困る。まずは床に傾斜がある。これは購入当時に分かっていた。最近畳の床下がブカブカする。安魚がネコツリーから飛び降り遊びをするたびヒヤヒヤする。安魚ではなく、床が、である。そのうち踏み抜かれてしまいそうで恐い。1階居間の押し入れの床が抜けた時の衝撃は忘れられない。押し入れには漁太郎の行き場の無い漫画が300冊程ぎっしり積み込まれていることだが、あれは安魚がまだ赤ちゃんだった3年前のこと。美魚は押し入れの襖にもたれ掛かって安魚をだっこしていた。すると、
「ギ・ギ・ギ・ギ」
何処からともなくうめき声のようなものが聴こえてくる。
「ギ・ギギギギギーッ」
地を這うような不気味な音響は次第に大きくなる。何だ?
「ギギギギギー」
心霊現象か?!美魚が安魚を抱いてその場に立ち上がったその刹那、
バスーンッ!!」
突然襖が弾け飛んだ。(ように見えたが実際は外れただけ)
過積載ゆえか、ボロボロのせいか、床が抜けた瞬間であった。床は漁太郎がすぐさまホームセンターに向かい、夜までに形を着けた。その時美魚は、床板の下が土であることを改めて知った。1枚したの世界に蠢くやつらを想像して、ゾッとしたことだ。家が強固で無くてはならない理由、やつらの侵入を許さないためである。やつらと同じレベルで生活したくないからだ。
ボロボロに目をつけられて、
「このままにしていたら、大変なことになる」
などリフォームの営業を受けることがたまにある。
美魚は既に何度も訪問を受けているので断り文句は決まっている。
「家は住めるだけ住んだら更地にするんです」
「あとどのくらいですか?」
「そーねーあと10年くらいかなー」
なーんて言ってお断りしてからはや10年経ってしまったことに気づいた。
安魚が先日唐突に
「もうこんなボロボロの家に住みたくないよ」
と言い出した。美魚の話す言葉の模倣である。つい
「あーもーやだなこんなボロボロ」
と愚痴を言ってしまうのが良くないのだろう。おうむ返しに子供に言われてもショックが大きい。
この家をリフォームするのもありだとは思う。だが、そもそもこの家は通勤圏内と云うだけでチョイスした950万の家。会社も辞めたし、ここにいる理由は既に無い。自己資金が500万あったのだが、銀行の住宅ローンが全額借り入れになったのは今考えてもよくわからない。そのローンがあと5年残っている。あーあ、引っ越ししたいな。出来たらまた昭和な家がいいな。f:id:mauymiuo:20170620105550j:plain

ピンクピン太郎

お昼前に雨の中、旦那さんは安魚に可愛い服を着せて外出した。
美魚は絵の続きをやって留守番。
多分児童館でも行ったんだろう。
それにしちゃ遅いな、
と思っていたら夕方に帰ってきた。
上野動物園に行ってきたらしい。
フリーパスが有るので安魚を連れて度々いく。
美魚は今日、ラジオでパンダの赤ちゃんが産まれたニュースを聞いていた。
さして感心もなかったが、
一方その赤ちゃんパンダ誕生に関するインタビューを安魚が受けたという。
旦那さんと美魚は5時過ぎからNHKニュースを見ながら待つ。
「放送されないかもよ。安魚全然話せなかったし」
旦那さんが言うには、
父パンダを見学して出てきたところで、
安魚はいきなりマイクを向けられた。らしい。
「今日パンダの赤ちゃん産まれてよかったね~」
なーんて聞かれても、
ポカーンとしていたらしい。
「じゃあさ、パンダの名前何にする?」
と質問が変わり、
しばらく考えてから、
「ピンクピン太郎でいいよ!」
と、回答したそうだ。
7時のニュースにその
「ピンクピン太郎!」
が放送されて、上手いこと編集するなと感心したことだ。
生まれたての赤ちゃんパンダはピンクである。
それを安魚は見たわけでもないのに、
偶然にしてもナイスなネーミングで驚く。

ツイッターで天才童女!なんて出てくると、
馬鹿親(美魚)は、喜ぶ。
でも、女の子の服着せてるけど、男の子なんだよね。

他には何もしたくない

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美魚はB3パネルに下書きを始めた。
B3くらいが描きやすくて好きだ。
パネルも紙を張る作業がなければ好きだ。
美魚は不器用なので、綺麗に張れたためしがない。
旦那さんは朝洗濯をして、
美魚と安魚に食事をつくる。
そして安魚も連れて買い物に行く。
帰ったら暫くしてまた食事の用意。
夜は安魚と風呂で遊び、食事を出してくれる。
旦那さんの休みの日は、美魚は何にもしない。
夜にアトリエに入ってきた安魚が、
「おなかすいた」
「おかんなんか作って~」
という。
「おとんに言ってよー」
「言わない、おかん作って」
美魚はイライラした。
食事係が下にいるのに。
渋々作業を止めて台所に行く。
すると旦那さんが居間から出てきて、
玉ねぎを刻みながらぼそりと呟いた。
「…たく、何にもしない」

やっぱり、何かしないと駄目みたいだ。
でも、他には何もしたくない。