マウィミウオの世界

美魚の生活雑記録

他には何もしたくない

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美魚はB3パネルに下書きを始めた。
B3くらいが描きやすくて好きだ。
パネルも紙を張る作業がなければ好きだ。
美魚は不器用なので、綺麗に張れたためしがない。
旦那さんは朝洗濯をして、
美魚と安魚に食事をつくる。
そして安魚も連れて買い物に行く。
帰ったら暫くしてまた食事の用意。
夜は安魚と風呂で遊び、食事を出してくれる。
旦那さんの休みの日は、美魚は何にもしない。
夜にアトリエに入ってきた安魚が、
「おなかすいた」
「おかんなんか作って~」
という。
「おとんに言ってよー」
「言わない、おかん作って」
美魚はイライラした。
食事係が下にいるのに。
渋々作業を止めて台所に行く。
すると旦那さんが居間から出てきて、
玉ねぎを刻みながらぼそりと呟いた。
「…たく、何にもしない」

やっぱり、何かしないと駄目みたいだ。
でも、他には何もしたくない。

幸運は私の足元にある

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美魚はある日、
安魚のぶらんこを押しながらふと、
足元のクローバーの茂みに目を遣った。
するといきなり四つ葉を見つけた。
「へーっ!ホントに四つ葉ってあるんだねー」
しゃがみこんで茂みを掻き分けると、
一気に14本見つけた。
中には五つ葉も六葉もある。
「こりゃあオモチロイ」
以来美魚は四つ葉探しに俄然興味が湧いたことだ。安魚を遊ばせる義務感から解放され、
能動的に公園が楽しめる。
実際、四つ葉は探せば必ず2、3本は見つかる。
クラッチなどより全然当たりがあるので達成感がくせになる。
公園を色々巡るので安魚も喜び、一石二鳥ではないか。
四つ葉は幸運のシンボル。
幸運はいつでも、探し求める人間に微笑みかけて待っている。
美魚は今まで知らずにいた幸運の扉を開ける方法を見つけたような気がするのであった。
もし四つ葉が見つからないとしたら、
もう誰かに持って行かれたと云うことなのかも知れない。
因みに四つ葉は、
生き生きとして、こんもり茂っているような株にはまずない。
自転車のタイヤでガシガシひかれ続けているような公園の入り口付近や、
たばこの吸殻ばかりのようなベンチ付近、
子どもの足で踏みつけられる遊具の通り道などによく見られるものだ。
四つ葉は踏ん張って生きてる証のように思われる
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成功哲学

f:id:mauymiuo:20170609105825j:plain今朝も安魚の
「お・かあ・さーん!!!」
の絶叫が階下から響く。
以前は無言でドタドタと両手をついて階段を登り、アトリエへ入って来たことだが、
この頃は起きると絶叫して美魚を呼びよせる。
ああ、
とペンを置く。
アトリエといっても3Kのうちの一部屋に過ぎない。ただこの部屋には作業机を置いているので、
美魚はアトリエと呼んでいる。
漁太郎と共有しているスペースだし、油断すると猫が机に寝そべったりする。
昨日も漁太郎は安魚を連れて買い物に出かけた。
その間に美魚は作業の続きを始めた。2時間後。
いいところでピンポンピンポーン、と帰宅を知らせるチャイム。
うかつにも美魚は、絵をそのままに机を離れてしまった。
そして数時間。
安魚も昼寝したことだし、と机に向かったその時である。
「絵の上に直に灰皿置いてあるー!」
無神経にも程がある、と美魚は漁太郎に涙ながらに抗議したことだ。
漁太郎はあー、ごめん。と謝りつつも
「だって灰皿置くとこないから」
「キミが部屋をカオスにしてるから」
「そんなに大事なら管理しないのが悪いんじゃない」
「キミは恵まれていることに気づいてない」
などと逆に色々言われてしまう羽目になる。
恵まれているとはどういうことだろう。
経済ではないのは確かだ。
共稼ぎが多いこの昨今に、
美魚は絵だけ描いてたいから、と会社を辞めた。
収入が減った分貧乏になった。
忘れた頃に安魚が産まれた。
更に経済は不安になったし、
絵を描く精神的な余裕がなくなった。
そして夢うつつのうちに安魚は3歳を迎えた。
やっと描けるようになったのだ。有難いことである。漁太郎は
「俺だって大変なんだよ?安魚とキミの面倒みて」
と話しを締めくくる。
悔しいけど、ほんとの事なので言われても仕方がないのであった。
贅沢しなければ何とか暮らしていける。
何とか暮らせれば絵を描いてのんびりやっていける。
だが、それでいいのだろうか。
絵を描く動機付けは何であったのか。
絵で欲しいものが手に入らなければ、経済や富が産まれなければ、単なる趣味である。
昔のことだが、ヴィヴィアンが着たくて風俗で働いてる子がいた。
美魚は体を張ってまで、買いたいとは思わなかった。
それに美魚は歌舞伎町のスナックを3時間でクビになった。
「あんた偉そうだな」
とお客さんに怒られてしまったので驚いたことだ。どうしてもヴィヴィアンが欲しい!という動機付けが弱かったせいだろう。
絵を描くのが楽しいようではダメだ。
もっと自分を追い込まねば。
自分に殺し屋を依頼したゴルゴ13のように。
図書館で借りた
「思考は現実化するⅠ Ⅱ Ⅲ」
を読みながら思う美魚であった。

そんな美魚は漁太郎に言わせると
「閑人代表」
「フリーダム」
浮世離れして全然苦労してない人間、それが美魚なのだそうだ。

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安魚の国に帰ろう

f:id:mauymiuo:20170526081317j:plain安魚がしょっちゅう口にする言葉に、安魚の国というのがある。
「安魚は安魚の国から来た」
「安魚はもうすぐ安魚の国に帰る」
美魚はそれを聞くと何故か切ない。最近はバージョンが増えて
「安魚の国のお母さんに怒られるから帰るね」
だったり、前日雨上がりに虹を見たとき
「虹を渡って安魚の国に帰ろう!」
「みーちゃは虹の橋を渡ってみーちゃの国に行っちゃった」
などと、まるで彼岸を思わせることを言う。
安魚の国が出てくるようになったのは、3歳直前くらいだろうか。
「安魚の国は何処にあるの?」
と試みに尋ねると、
「頭の中だよ!」
頭の中の想像の世界なんだろうか。
「どうやって行くの?」
「マントでビューんて行くんだよ」
「でもマントがないから行けないよ」
「安魚はもっと大きくなっておじいちゃんになってまた小さくなって行く」
それを聞くと胎内回帰みたいである。
美魚はずっと安魚に胎内記憶を尋ねる日を楽しみに待っていた。3歳2ヶ月、そろそろ頃合いだろうか。
「お腹の中のこと覚えてる?どんな感じなの?」
「安魚の国は紫の電気がついてる」
「安魚の国で何してたの?」
「ぷかーって飛んでた」
「どうやってここに来たの?」
「頭から水に飛び込んでドバーッと出て来た」
なるほど。安魚の紫好きはここから来ていたのか。紫は臓器を思わせる。
美魚はその日、自分の胎盤をトレーの中に見た。赤紫で、平べったくて、深海魚みたいにぶよぶよしていた。ここに包まれていた安魚は、まだ記憶を残しているのだろう。そして何時でも戻れると思うらしい。胎内は近くて遠い。彼岸と此岸ほどの距離がある。だが、安魚はおじいちゃんになってまた小さくなると行ける、と語る。死後の魂は転生するのだろうか。7歳までは子供は神様の所有だと聞いたことがある。神様の力が働いて子供は生きてるし、神様の所に帰ってしまうこともあり得る。美魚は寂しくなる。
「お母さんも安魚の国に一緒に行こうね」
「まだまだ一緒にいるからね」
「ずっといるからね」
安魚の国を口にしたあとはちゃんとフォローする。子供は親の所有には出来ない。だが、手放すのは寂しいことだ。

美魚は自身の父親とはうまくいかず、20年ほど断絶したままである。安魚に会う気も、会わせる気もないが、まだよそのオッサンだと思えないのがもどかしい。
母親は暴力の餌食になっていたが、兄や美魚は威嚇意外に父から実害を被った訳ではない。働かない、暴れる、貧乏、それだけのことで美魚は父が嫌いなのだろうか。父が嫌いな理由を考えると、兄と比べて美魚が馬鹿で、何故馬鹿なのかと言うと、文部科学省的な学力もあるが、単に女だから、女は、馬鹿でしょうがねえ、という差別をされてきた事にある。
「女はどうせ出ていくから、金かけてもしょうがねえ」
と父は揺るぎない主義を持っていた。女は出ていく、嫁に行くからだとしても、そんなん言わなくてもいーじゃん。女の子供は無用の長物なのですか。
なので美魚はちゃんと忘れず、結婚する時に親の籍から抜いて、新しく戸籍を作った。役所の係員は
「結婚すると籍は別になるのに。抜いたら戻れませんよ」
と注意して下さった。でも、親を捨てようと本気で考えていたので、構わない。
間鵜井の名字を捨てなかったのは漁太郎が
「名前変える機会なんて滅多にない」
と自分の名字を捨てたからで、美魚は嫁に行くことに反発したのである。
因みに数年経ってからそれに気がついた父は
「あいつ籍を抜きやがった!」
と激怒したそうである。矛盾しているようで当然にも思える。

美魚も美魚の国に行ってしまったのだ。だが、ほんとの原因は何なのか、たまに考える。

ひけるギターをひくんだぜ

f:id:mauymiuo:20170521091743j:plain安魚はダイソーでオモチャのギターをねだり、美魚は3度目くらいで買い与えた。すぐ飽きると思ったのだが、
「みんな~友達~」
「ひけないギターをひくんだぜー」
「安魚の~コンサート~」
などと毎日かき鳴らして歌ったことだ。
踏んづけてバキっと割れた所を
「お母さん直して~」
とテープを持ってくること数回、ついに使い物に成らなくなってしまった。
美魚はまたダイソーで買ってやるつもりであったが、漁太郎は安魚を連れてお茶の水まで出向き、ウクレレを買い与えた。f:id:mauymiuo:20170521091859j:plain
美魚は楽器店と言うものは敷居が高くて入りづらい。音楽の素養は一切持ち合わせていないし、縁もゆかりもない。イメージの客層は見るからにロックンロールな人々で溢れているのかと思っていたが、小綺麗な若者ばかりであった。それは画材屋にベレー帽を被った人々が溢れている古臭いイメージと同じであろうか。漁太郎は楽器店を巡って、一番安価な店で安魚にチョイスさせる。安魚は店先の吊るしの赤いウクレレをチョイス。だが、支払いを済ませ品物を受けとる寸前に
「やっぱり紫がいい」
と言い出す。安魚は紫色が一番好きだ。絵の具もクレヨンも紫ばかり使う。紫の履歴書を安魚も書くのだろうか。
早速帰って取り出す。まず音が全然違う。2400円だが、玩具ではない。
安魚はかき鳴らしてみて、
「なんかさみしい音がする」
漁太郎も美魚もコードなど知らない。ウクレレってなんか陽気な気がするんだけと、妙に寂しくなるのは何故だろう。

安魚、こども園を見学

30年度に年中入園させる予定の安魚。家から歩いても行ける私立幼稚園は3件。送迎バスを利用せずに美魚にも自転車で通わせられる距離では、
(漁太郎はアンチ送迎バス派)
一般的な幼稚園4件、お寺系1件、カトリック系1件、そしてこども園に絞られる。
こども園は0歳から3歳までは保育園で、4歳から幼稚園になる。公立なので二年保育のみである。安魚の二年保育を決めた時から勿論念頭にあった園だ。だが、こども園はベールに包まれているように思われる。ホームページも曖昧だし、直接見学するほうが早い。
美魚は安魚を連れてこども園を訪れた。女性の園長に直々に概要を説明していただく。29年度総定員は107名。内4歳児は長期、短期合わせて29名。新たに募集されたのは短期保育の15名であった。
「こちらは普通の幼稚園とはかなり異なっていまして…」
美魚は手渡されたパンフレットに目をやる。
9時の登園(自由遊び中心) 
12時お昼(以後自由遊び)
2時の降園
その他諸々年間行事。
「何かを教えたりする時間は殆どありません。まずそこをご理解ください」
「一応、発表会や運動会みたいなものもありますが、大人が見て楽しむより、こどもが楽しんでやりたいことをやる感じですね。地味です」
まさに理想的である。ただ与えられたスケジュールをこなして行くのでは子供の自主性は育たない。
でも一番知りたいのは、入園についてである。
「定員は15名ですね。抽選できまります。外れた方は順位を決めて待機していただくか、私立幼稚園に行かれますね。今年は待機で5名入りましたね」
倍率は高いが、入れたら素晴らしいと美魚は思う。その理由の1つは格安だからだ。入園時に標準服という制服もどきを買うそうだが、8000円から9000円とのこと。その他準備品も微々たる金額。月謝は階層によるが、間鵜井家では6000円である。私立は入園金、考査料、設備費用、制服、用具類と初めにかかる。そして月謝は30000円近い。区の補助があってもかなりの金額になるだろう。公立って、タダみたいな値段だなと改めて思ったことだ。
申し込み書は10月に配布とのこと。
「では館内をご案内しましょう」
華美はなく質素その物なのがまた良い。子供の自由に任せて室内遊び、そと遊びがチョイスできる。園庭には手作り感満載の遊具。
(小屋やビールケースのキッチンなど)
今時のピカピカなキャラクター遊具など公立には無縁らしい。実に好感がもてる。園庭を遊んでいってよいとのこと。園児たちはばらけて数人ずつで遊んでいる。ほぼ自由時間しかないなんて…遊具はろくにないが、一応プールがある。砂場には水道完備。園庭の至るところで水しぶきがあがっている。彼らは水と泥があればそれで充分なんだろうか。野菜のプランターのイチゴはいずれジャムにして園児たちに出されるそうだ。職員は8人くらいが散らばって監督している。お遊戯や、楽器の音は聞こえない。給食食べてまた遊び呆けるだけなのか。いいな。
美魚は見学を終えて安魚に、
「ここ、いいじゃん。来たいね」
すると安魚は、
「来たくないけど」
「ただ遊んでりゃいいんだよ?」
「安魚はお母さんと友達だから」
1人で通うのが不満らしい。でもみんな親から離れて社会の中に放り込まれるんだよね。美魚も安魚をそうするつもりでいる。
漁太郎は別に幼稚園なんて行かせなくてもいいと言う。保育園や幼稚園に行かせない親は貧乏人のろくでなしのように思われそう。思われて平気な親は行かせないで済ませるのだろうか。タモリは幼稚園に行かなかったと公言していたが、それは彼の時代にも特別なことだったのだろうか。
幼稚園は教育機関であり、義務教育以前に必要なことを学習させる場所とのこと。だが、このこども園では学びは自主性に任せているという。遊び中心、遊びから学ぶこと。放任のように思われないこともない。保育園に毛がはえたくらいなのが美魚はいいと思うが、抽選に漏れたらどうしようね。

3歳の子供は平日ぶらぶらしないらしい

f:id:mauymiuo:20170514114416j:plain美魚はペン画をはじめる。安魚がしょっちゅうアトリエに
「お母さん迎えにきたよ」
と呼びにくるので進まない。漁太郎はGW中は持病の腰痛が悪化し、横になり入浴で痛みを和らげて過ごしたことだが、今日久々に安魚を連れて外出した。美魚は蒲団を上げて掃除機をかけると、出来るだけ進めようとペンをとる。
昨日は安魚に日本脳炎二期を接種させるため、再び病院を訪れた。女医は診察室に入ると安魚に向かって、
「今日はお休みしたの?」
と唐突に言葉をかけた。
「…ああ、まだ幼稚園いってないんだったね」
「はあ、来年です」
そうか、平日に予防接種にくる子はあまりいないのか。美魚はやっと意味が分かった。今回の安魚はまったく動揺せずに、接種を済ませた。強いねーともてはやす大人たちに、 
「痛いのは痛いけどね」 
などとコメントし、笑いをとる安魚。病院の横手には樹木の茂る公園があり、安魚は待ちかねて飛び込んで行った。折しも昼下がり。ベンチにはまばらにサラリーマン。貸し切り状態の砂場で安魚と泥団子をこねていると、つかつかと近づいてくるスーツの男性。美魚は多分コープ系のアンケートと言う名の勧誘だろうな、と待ち受けた。
「今日はー。今、ヤクルトさんを募集してまして」
なんだ、そっちか。ヤクルト購買の勧誘はときどきレディースの訪問を受けることだが、安魚がノコノコ玄関さきに出てくると
「可愛い!」
「今いくつですか?」
に続いて、
「今どこかに通ってるんですか?」
と聞かれることがある。
「いいえ、来年幼稚園の予定で」
これがレディースのタイムリーな受け答えらしく、
「一度ヤクルトの託児所の見学に来ませんか!」
と始まるのだった。
美魚は働くつもりはさらさらない。ヤクルトさんは週に5日も働いて、およそ5万くらいだという。頑張れば稼げます、皆子育て世代で、協力しあってます、お古を譲りあったり、子育ての相談もできます、お休みしたい時は前日に2本配ったりできます、今お時間あれば、託児所に見学にいきませんか!
矢継ぎ早に笑顔で説明する男性に、さも興味ありげに相づちを打っていた美魚は
「今んとこ働く必要ないんで、」
と笑顔で辞退した。
「あ、そうですかぁ。じゃあ」
男性は、早く言えと言わんばかりに公園から立ち去っていった。雨の日も風の日もヤクルト配れるガッツがあれば、まだ生活を安魚の幼稚園リズムに合わせられないという理由で二年保育をチョイスしたりはしない。世間並に子育てをするには、まずは環境。あらゆる方向性を幼児期に指し示すこと。そもそも美魚は3歳はまだ家にいて、ぶらぶら連れ歩く歳だと思うのだが、貧乏人の言い訳だろうか。