玩具王とびないさん
7月下旬に、2年ぶりに青森へ出かけた。
今回は初めての下北半島である。
旦那さんが全て手配するので、
美魚は息子の安魚と暢気に着いて行くだけ、
おまかせ旅だが、
愛する青森の地に立つだけで十分。
もはや何も求めない。
だがここは恐山の麓、むつ市である。
いやが応にも、期待は高まる。
そして、その期待は裏切られなかった。
むつ市3泊4日のうちの、2泊の宿は本当にヘンテコだった。
非日常の旅行なのに、そこには日常がある気がした。
ひとん家感…。
ひとん家に初めて上がらせてもらった時に感じる、
あれ、結構汚いな。
ボロボロじゃん。
凄く散らかってるな。
よく恥ずかしくないな。
オバサン今いないの?
(友達のお母さんのこと)
と、思わず尋ねたくなるような、
がらんとした大きな家。
でも、落ち着くな。
好きかも…。
また、来てもいい?
そんな、子供の時に感じたようなひとん家感。
それがとびない本館の第一印象だった。
美魚は寡聞にて存じあげなかったが、
一部のアート世界ではちょいと名の知れた、
とびないさんと仰る方の華城であるらしい。
始めに感じたひっそりした印象は、とびないさんの出迎えで一蹴されてしまう。
とびないさんは、古家の全てを活きづかせる、玩具の王のような方だった。
魔法なのか、ゼンマイなのか、この方も玩具ではなかろうか。
そう、此処とびない本館には、膨大な量の昭和玩具やモデルガンが、無秩序に配置されていた。
その全てはちゃんと玩具の役割を未だに果たしている。
陳列されたレア品も在ろうが、玩具王が手に取り遊ぶための、純然たる玩具だ。
安魚が勝手に遊び始める。馬鹿にうるさい。
とびないさんは当然のように
「あー、わらしさん来てるねー、子供がくると集団で集まってくるんだねー」
座敷わらしのことである。
宴会場に座敷わらしが大勢いるのだと仰る。
安魚は別の客室で女の子の笑い声も聞こえたらしいし、(泊まり客は美魚たちだけ)
こりゃあオモチロイ所に来たなぁ。
そして、本当にわらしさんはいたのである。
汚れた中年の美魚には全く感じられなかったが、
安魚はピュアだから、わらしさんとフィーリングがあったらしい。
それが、この蛍のような発光体だという。